Research

 ここでは高校生や学部生を想定して大まかな研究紹介をしています.
研究内容について詳細を知りたい方はAchievementから論文を探して読んでいただくか,メールでお問い合わせください.
もちろん研究室に来ていただければ直接お伝えすることも可能です(アポは取ってください).

【研究キーワード】
ホログラフィ(光学ホログラフィ,ディジタルホログラフィ,計算機合成ホログラフィ,動的ホログラフィ),AI Optics --- 左記技術に関する光学実験・数値シミュレーション
 ホログラフィやホログラムという言葉を聞いたことがあるでしょうか? 最も身近なホログラムは紙幣やクレジットカードに貼付されているキラキラした"アレ"です.
※ちなみにホログラムという言葉はかなり誤用されています.「ホログラム」で画像検索して,どれが偽ホログラムか見分けることができますか?
どうしてホログラムはキラキラしているのでしょうか?そもそもホログラムって何なのでしょうか?

 高校物理で習った回折格子を思い出してみましょう. 回折格子はガラスなどに多数の溝を掘った光学素子で,入射した光を曲げることができます. 入射光の波長によって光が曲がる角度が変わるので,白色光を入射すると虹色にキラキラして見えます. また,溝の間隔を変えても光が曲がる角度を変えることができます. 高校で習う回折格子はまっすぐの溝が等間隔に掘られているのですが,もし回折格子の溝がもっと複雑だったらどうなるでしょうか? 回折格子を通過した光によって作り出される像はより複雑なものとなるでしょう. 回折格子の形状と,回折光を通過した光には驚くべき関係があります. 光その1と光その2を干渉させてできた干渉パターンを写真乾板等に焼き付けて形成されたモノは回折格子となりますが, この回折格子に一方の光(光その1/2)を照射するともう一方の光(光その2/1)が回折されます. もうお分かりかと思いますが,この複雑な回折格子こそホログラムの正体です.

 ホログラムを記録するには被記録光である「物体光」とそれとは別の「参照光」の2つの光が必要です. 「物体光」と「参照光」と「ホログラム」は三位一体で,これらのうちの2つがあればもう一つが生成できます. 例えば,「物体光」と「参照光」を記録媒質中で干渉させると「ホログラム」ができます. 「ホログラム」と「参照光」があれば「物体光」が再生できます. もちろん「ホログラム」と「物体光」があれば「参照光」が再生できます. 記録時に使った物体光と,ホログラムによって再生された物体光は完全に一致します. "完全に"というのは,光の明るさに関する情報(光強度分布)だけでなく,光が進む方向に関する情報(光位相分布)も再生できるということです(通常の写真では光の明るさに関する情報しか再生することができません). また,ホログラムは同じ場所に重ね書きすることができるという性質があります. 紙幣に貼付されているホログラムが角度によって見える像が変わる現象はこの「多重記録」によってもたらされるものです.  

 ホログラフィにはいくつかの種類があり,分類法も多様です. ここでは「記録法」と「再生法」で特徴づけられる分類法を紹介します. 光学ホログラフィでは,記録も再生も光学的に行われます. 現実の光波を記録し,実際にその光波を再生する必要がある場合に用いられます. 主な応用はディジタル光記録,光コンピューティング,高機能フィルタなどです. ディジタルホログラフィでは,記録は光学的に行われますが,再生は計算機内で行われます. 物体光と,既知の参照光の干渉パターンをカメラで取得し,計算機によって物体光を再生します. 干渉パターンを解析し,物体光の強度分布と位相分布を計算機内部で定量的に復元する技術とも理解できます. 主な応用は光強度・位相計測を通じた形状計測,屈折率計測,高密度光情報処理システムなどです. 計算機合成ホログラフィでは,記録を計算機内で行い,再生は光学的に行います. 計算によって求められたホログラム(振幅変調格子or位相変調格子)をプリンタや空間光変調器などで現実に再現し,物体光を生成します. 所望の光波を回折する回折格子を意図的に作成する技術とも理解できます. 主な応用は3D表示,ホログラムプリンタなどです.

 ホログラフィは光を制御・記録・解析するために極めて重要な技術だということがおわかりいただけたでしょうか. これまでの光強度を入出力とする多くの光システムが,光強度および位相を入出力とするより高度な光システムへと移行するために欠かせない重要な技術となります. 私たちの研究室ではホログラフィを活用した新たなシステムの創成を目指した研究を行っています.

ホログラフィの多様な応用
 ホログラフィの代表的な応用の一つである大容量光メモリ「ホログラフィックメモリ」に関する研究を行っています. ホログラフィックメモリでは,光波の完全な記録再生を可能にするホログラフィの原理に基づき,情報を変調した光波の記録再生を介した情報の保存を行います ホログラムの多重記録性能を利用し,わずかなスペースにとてつもない量の情報を記録することができます. 一般的なHDDと同程度の大きさのカートリッジで400TBの記録容量を達成できるとする見積もりもなされています. 本研究室では数値シミュレーションと実験の両面からホログラフィックメモリの性能向上を目指した研究を行っています.

 本研究室で開発を進める特長的なシステムに,"参照光が不要な"自己参照型ホログラフィックメモリ(SR-HDS)があります. SR-HDSは光波に変調された情報さえ保持できれば,光波そのものは必ずしも完全に記録される必要はないという発想に基づき, 通常のホログラフィックメモリにおいて必要不可欠とされてきた参照光を使用せずに,安定的な光学系でホログラフィックな情報記録再生を行う方法を発明しました. 最近では,SR-HDSの再生信号品質を向上させることを第一の目標に据えて,多角的な視点から研究を行っています.

"参照光が不要な"自己参照型ホログラフィックメモリシステム(SR-HDS)
 ホログラフィの一つである「ディジタルホログラフィ」を利用することで,光位相分布を定量的に計測する「定量位相イメージング」を実現することができます. 光の位相分布は物体の形状や屈折率によって変化を受けますが,こうした変化は元をたどれば物体に傷がついたことによって引き起こされているのかもしれませんし,はたまた病気によって引き起こされているのかもしれません. つまり,光の位相分布を計測することで,これまで観察が困難だった情報を取得することができるようになると期待されます. 具体的には,目に見えないキズや凹み,質量の変化,厚みなどの形状変化などです. これから先,医療分野や生産管理分野,生物研究分野などで重宝されようしている技術です.

 本研究室では定量位相イメージングを用いたディジタル病理診断システムに関する研究を行っています. がんの検査をするときに細胞や組織を顕微鏡で観察することがあるのですが(細胞診・組織診), 定量位相イメージングができる顕微鏡で細胞や組織の観察を行うとこれまでの顕微鏡では到底見ることのできなかった構造の変化を抽出することができるようになります. これはがんの早期発見や診断エラーの低減につながるので,がんが原因で死亡する人を今よりもぐっと減らせるかもしれません. さらに,こうしたラベルフリーディジタル病理診断というシステムが普及すれば,遠隔の診断がスピーディーに行えるようになるので,医療の地域格差を是正することにもつながると期待されています. 本研究室では,米・イリノイ大学のGabriel Popescu教授の支援・協力のもと,新しい病理マーカー抽出に関する研究を進めています. また,最近では当該診断システムにAI技術を積極的に取り入れ,イメージングの高速化や複数マーカーによる効果的な分類を実現するための研究も行っています.

定量位相イメージングを用いたディジタル病理診断システム
 その他,ホログラフィを軸にして(もちろんホログラフィに固執することなく),機械学習などの情報工学や多分野の知識・技術と融合した高度な光情報システムを構築したいと考えています. 構想中のため本HPには書けないこともたくさんありますが,少しでも興味を持ったら一緒に研究の話をしましょう!